参加者:らんぶら(くろ)、行徳、ようちゃん、のっぽ
日時:2004年3月28日(日)
文章:のっぽ


いやあ、ばてたばてた。なんたって翌朝おきられなかったもんね。

しかしかなりの疲労感とともに、電車で川下り、の確かな手ごたえをつかんだ一日でした。らんぶら(くろ)さんに感謝。そして、同行の行徳さん、ようちゃんにも、また。


今回の出艇場所は、東武線堀切駅そばの川原ということになった。荒川の川原に野球場があり、その川下側の外れの護岸をされているコンクリートの際から出艇をするのだという。コンクリートの部分は足場がしっかりしているが、常時水に使っている場所は、コケが生えていて必ずすべる。そのギャップが大きいので、ついつい、ぬれた場所にたち、滑ってしまう。これはどこであれ、要注意だ。本当は階段状のところが安全なのだ。しかし、そういう場所は、なかなか、ない。

堀切は、田園都市線から直通でいけるようになった。田園都市線、あざみ野駅に本拠がある私にとって非常に便利、のはずだった。なんといっても中央林間から、東武動物公園を抜け,南栗橋まで直通電車が走ろうとは誰が考えよう。しかし、今のところその直通運転も、こと休日には「?」のつくものだ。というのも、地下鉄半蔵門線の事実上の終点、押上駅より先に行く電車は、昼間の時間帯は、1時間に3本しかないからだ。これではローカル線と変わらない。最大20分の待ち時間が発生してしまう。

さらに、直通電車は、区間準急か通勤準急になってしまう。東武線の本線に乗り入れるのが押上駅の次の曳舟駅、その次は北千住まで通過である。一般の人にとっては利便性がよいのだが、これがマイナスにはたらく。堀切は北千住の南にあるので、曳舟でもまた電車を乗り換えなければならない。

曳舟駅にある時刻表はわかりにくい。なにしろ各駅停車というのが存在しないらしい。時刻表に黒数字が見当たらない。堀切に止まるのは、準急だとのこと。しかし路線図で青線で描かれているそれは、時刻表では赤数字だ。不親切極まりない。いずれはわかりやすく修正されるのだろうか。現時点では、かなりの注意が必要だ。むしろ後のことを考えれば、いったん北千住まで半蔵門線直通電車で行ってしまって、北千住には少なくとも上りエスカレーターぐらいはあるだろうから、折り返してくるほうが正解かもしれない。

と、いうのは堀切駅では下り線ホームに降りてしまうと、改札を出た後で、陸橋を渡らなければならない。いわゆる対面式のホームで、両方のホームに独立した改札口がある駅だ。従って、北千住から折り返したほうが有利のように思える。時間的ロスは未知数だが。たぶん北千住にはエレベータがあったような気がする。

上り線ホームからは、階段を数段あがればよい。土手の上を走る道路を横断し、階段をおり、目的の出艇場所までは、5分とかからない。那珂川の道の駅かつらの駐車場から、川までの距離とほとんど変わらず、電車でカヌー、のロケーションとしては驚異的な近さである。よくぞこのような出艇場所を発見してくれたものだ。

この位置は荒川から、隅田川へ入る水路の入り口に位置する。一瞬荒川を楽しむこともできるが、すぐに水路を伝って隅田川に入ることができるのだ。水路は狭く、しかしクルーザーをはじめ、モーター船がかなり頻繁に出入りすることもあるので、充分な注意が必要だ。とはいえ、全般には、かなりのどかである。

直通電車の接続の悪さのおかげで、押上駅でいったん降りるはめになった。ふと、気がつくと、というよりそれまで気がつかなかったのが不思議なのだが、となりのドアのところに、非常に大きな装備を持った人がいる。おやおや、あの装備はカヌーらしいぞ、と思ったら、くろさん、改メ、らんぶらさんだった。


堀切駅で野郎三人が合流。あまりいい図柄ではない。駅前には、何もない。ラーメン屋が一軒あるだけだ。あまりうまそうなたたづまいでもないのだが、昼近くなって営業をはじめた。出艇が遅ければここで腹ごしらえという手もあるのだろう。味はまったく保証できないが。

駅員にコンビニのありかを聞く。下り線の改札を出た道を右に道なりに、大通りに出たところ右手にあるとの情報。なるほどここにはファミレスもある。だいたい駅から5から10分。駅員が言うのだからそこが最短なんだろう。ちなみに、このコンビニには酒類がある。冷えたビールが必需品という向きにはおすすめではある。ただし道中、トイレに行きやすいというわけでもないので、あまり大量に仕入れるのもいかがなものかと思うが。


今回の旅程は橋フェチにはたまらない(だろう)行程だ。のっけから水路の入り口で東武線の鉄橋と道路をくぐり、短い水路の出口では綾瀬橋をくぐる。隅田川に合流してからも水神大橋からはじまり、今回の終点晴海運河の相生橋まで、合計19
本の橋をくぐることになる。

この水路は旧綾瀬川という名称で地図にのっている。高架下にあるため、少しうすぐらい。綾瀬橋をくぐったあと、隅田川に入り、すぐに、上を走っていた高架が川の上からなくなる。隅田川というと、高速道路が上にふたをしていたイメージがあるがそんなことはない。川の東岸の上に道路がかかっているだけだ。

白髭大橋は、隅田川花火大会でほとんど交通規制を受けない場所だ。車の交通も遮断されないし、人も、言問橋のような大騒ぎは、ない。それでも、立ち止まるな、としつこくうるさいのだが。下流側の歩道は相互通行のままで、何回も往復するフリをしながら、昨年はこの上で隅田川花火を、見た。

そのとき、川の交通規制の上限は、白髭橋の少し下流だったはずだ。従って、その位置であれば、遠くはあるが、かなり上流打ち上げの花火を楽しめるのではないかと考えられた。問題は、非常に多くの船が出てしまうと、その船べりの高さでほとんど花火が見えないという可能性、それに、大会終了後の民族大移動だ。このとき、川面は嵐のように荒れ狂う海面と同じような状況だった。考えられるのは、手漕ぎの小さな舟であることを理由に、最前列に出てしまうことだろう。

ただし最前列に出たとしても、そこには警備艇や巡視艇がたくさんいるわけで、とてもおちついて楽しめる状況かどうかは不明なのだが。終了後の撤収は、一番最後から出るか、あるいは、最初からゴム艇で出てしまって、どこか手近な岸にむりやり上陸してしまうか、ということになるのだろうか。少なくとも花火大会終了時に、川のど真ん中にいたならば、大型船からひき逃げされにいくようなものだ。と、なれば、川の端に避難するのが妥当そうで、ところどころ階段状になっている川の隅などはかっこうの逃げ場だ。波は大きく、あるいはぐしゃぐしゃになるので、おそらく、ファルトであったら、岸に何回かたたきつけられることによって、相応の損傷を得るものと考えられる。ゴム艇がよさそうである。

らんぶらさんの話では、昨年の隅田川の下限地帯からはほとんど花火がみえなかったそうなので、選択肢はこの白髭橋下流しかなさそうなのだが、これはこれでかなりノウハウを積む必要がありそうだ。とても酒を飲みながら浮かれて、というわけにはいかないかもね。

白髭橋を通過すると、およそ1キロばかり橋がない。最後の区間に次ぐ、最長の区間となる。おかげで川の風景を楽しめる。このあたりは、遊歩道が通ってはいるが、あまり開けた感じもしないので、人もそんなに多くない。第一サクラがまったくない。
そうして、次の橋が桜橋である。X
字をした、歩行者専用の橋になっている。この手前から、次の言問橋下流にかけての両岸が花見の見所となっている。残念ながら、その前日にリサーチした千鳥が淵に比べても、咲き方が鈍い。3分から5分というところか。木によっては満開のところもあるが。これが丘であれば場所取りに大変なところだが、こちらは水上なので、好きな木の下に自由に移動をすることができる。(この原稿を書いている現在7日ぐらいだが、満開のようだ)


それでも屋形船が大挙して来ているので、まったく自由にというわけにはいかないのだが。こちらは花見に来ているのに、花見客に見られに来ているような状況になり、カメラフラッシュの集中砲火に合う。まるで芸人か難民だ。屋形船からは「なにやってんの?」という声が飛ぶ。「そっちこそなにやってんのよ」と返す。花見に見えないのだろうか。酒まで買い込んで、団子も食べているのに。


ようちゃんが屋形船からビールの差し入れを受ける。その一方、別の屋形船からは、ロールしろと要求される。なんでロールなどせにゃならんのだ。そもそもこの日ようちゃんがのっているのは、スターンズIK134である。デッキカバーがあるからムリすればできんこともないのかもしれないが、およそロールに不向きなフネだ。

どうしてこう、カヤックといえばロール、というイメージになってしまっているのだろう。カヤックをしているというと、必ず「危なくない?」「ひっくりかえっても起き上がれるの?」とワンパターンの聞かれ方だ。いいかげん模範回答集というのを作らねば。ある
いはまったく無視するか。

花見としてはこの区間がもっとも楽しい。というより、ここだけだろう。純粋にお花見ツアーとして楽しむならこの部分だけで遊んでいるのが危険も少なく良いのではないか。適切な上陸場所を見つける必要はあるが、川はあまり流れてもいないから、出発地まで戻ることもけして無謀な話ではない。なにより、海上交通は、東京湾側から上がってくる船のほうが多いようだから、花見のシーズンに限ってはそのほうが安全かもしれない。


この河岸の公園のところで、私は上陸をした。本当にトイレに行きたかったのと、上陸できるものかどうか試したかったからだ。川には100メートルおきぐらいに、川から上る鉄ばしごがある。フネをつなぐカラビナとロープを用意しておけば、インフレータブルであれば自由に上がりおりもできる。登ってみると造作も無い。ただし、大型船やジェットスキー通行中で大波が立っているときはかなり難しいかもしれないが。また、この日はたまたま、お花見のため、トイレが近くにあったからよいが、ふだんであればなかなかそうもいかないかもしれない。

しかし、川岸にはつねに誰かいるようすなので、その人にきけばトイレのありかぐらいは教えてくれるだろう。フネをみてもらうこともできるかもしれない。もちろん、誰かが強引に流してしまえばそれはまた別の話だが。

ツーリングとしてはだいぶこの区間で時間を浪費してしまったので、先をいそぐことにする。赤い吾妻橋を通過していると、上を通行している女子高校生から「がんばって」の声が飛ぶ。何ががんばってなのかわからないが、無視するのもわるいので「がんばるよ_」。だから、何を?

本来であればこの吾妻橋の手前あたりで、いわゆる「うんこビル」つまりアサヒビールの本社が見えるはずだ。しかし、川の上からでは勝手が違う。どうも高速道路が邪魔をしてちょうど死角にはいりこんでいるようだ。川の東岸よりを進行していたためもあるかもしれない。東岸を進行していたのにはもちろんわけがある。フネは右側通行が基本だ。これは川であろうと海上であろうとかわりがない。同じ航路上を走っている船どうしは右側通行ですれちがわなければならないし、衝突の危険性がある場合には右に回頭して、正面の船をよけなければならない。


しかしながら、その規則に従って、川の右側を通行していた場合、非常に危険なことになる。と、いうのは、普通の小型船や、クルーザーなどからはカヤックは非常に見えにくい存在であるからだ。水の上にはりついているようなカヤックは、水からの高さがほとんどない。特に隅田川のような街なかを流れる川の場合、丸太や天然木のような大きな浮遊物が流れてくることが考えにくいため、ある程度の破壊力を持てる船舶はそうした物体を予想はしていない。

そこへきて、船べりがかなり高い。そのため、すぐ近くの水面にあるものは全く見えない。カヤックとしては、ある程度の距離があるときに発見して注意をひかなくてはならないのだが、車とは違い、水上交通の場合は、操縦者が前方に注視しているとは限らないのだ。

従って、川の右側を通行していた場合、突然後ろから襲われたり、信じられないほどの至近距離を通過していったりということになりかねない

幸い、はしけのような小さなフネは、陸上における道路の歩行者のごとく、道のどこを歩いていようと、かまわない。とはいえ、真中を通行するのは、動力船の邪魔になるので、川の左側を、できるだけ岸に沿って通行するというのが理にかなっているというわけである。というようなことは、出発時点では良くわからなかったが、交通量が激しくなるにつれて確信に変わってきた。ただ、もちろんとにかく注意が必要である。正面から来る船舶は注意が散漫になっている。というのも、通常は船尾が見えているにすぎず、通常の屋形船様のフネは、後ろから見るとかなりボリュームのある形をしているからだ。つまるところ、隅田川に関しては、のんびりと川下り、というわけにはいかない。波も立てば、通過船舶も多い。それは、街中でのトレーニングをしているアスリートに似る。

それに、とにかくビールをがばがばというわけにはいかない。男性であれば、そして通常の川原であれば、ちょっと茂みに入って用足し、ということはできるだろう。しかし、なんたって都会の中のカヤックは目立つ。まして、目をトロンとさせている状態だ。さすがにテロリストとは思わないだろうが、一挙手一投足は監視されていよう。そこでおもむろにズボンの中から一物を引っ張り出そうものなら、通報されることは間違いないだろう。


隅田川の観光船には2種類であった。派手にデザインされた、芦ノ湖外輪船風のものと、最近に松本零士がデザインしたという、宇宙船を模したようなデザインのものだ。かっこうがいいだけに、そばにいると威圧感がある。そして、さながら海をおよぐマンタのように、でかい。


蔵前橋を過ぎても、波はいっこうにやまない。というよりかえって激しくなる。なにしろ花見場所を目指して東京湾からさかのぼってくるクルーザーが後を絶たないのだ。暗くなると危険度は増すだろう。そういうわけで、今回、このあたりからは、ほとんど景色を眺める余裕がなくなってしまった。先の距離が感覚的によくわからないため、無我夢中で漕いだ。
 

最後の橋をくぐり、堤防を回りこむ。この堤防からは竿が何本も出ている。おそらく、常にここで釣りをしている人がいるのだろう。こんなところでも釣り師と戦わなければいけない運命はあるかもしれない。向こうはあまり、水の上の交通には気をつかっていないので、間違ってもこのようなところでの沈は避けたい。ふだん、何事もないだけに、かつ、そんなに釣果が上がるともおもえず、退屈しきっているだけに、釣り糸に引っかかろうものなら、大変な大騒ぎをされてしまうだろう。

突堤を回り込むと、場違いなフネの黄色いマストが見える。東京海洋大学と名前を変えた商船大学の持ち物である明治丸のマストだ。突堤を回り込んだ越中島公園の南の端のがれ場が、今回の上陸場所となる。このあたりはもう船の交通もほとんどないため、波が立つことはあまりないが、南風が強く吹きつけたならば、波が立つことも考えられ、コンクリートの断片に見える岩は、かなりざらざらしているだけにファルトボートでは注意が必要だろう。また、ぬれたところはかなりすべるし、岩の間に足を挟むと相当危険であるので、理想の上陸場所とはいかない。


今回は干潮に近かったため、全部露出していたが、もう少し満ちてくれば、撤収はもっとラクになるかもしれない。しかし中途半端だと、船底を傷める危険性がある。判断の難しいところだ。

撤収位置は橋のたもとからすぐのところにある。月島駅までは相生橋を渡り、高架道路の下まで、200メートルぐらい。これもそんなに遠いという距離ではない。実はこの橋の両側から、豊洲のスポーツクラブ、DOスポーツ行きの無料送迎バスが出ている。片側は東京海洋大学の正門前、もう片側は相生橋を渡りきった際になる。運の良いことに両方とも橋の手前側で、道路を渡る必要はまったくない。このバスに乗れば、豊洲駅から200メートルのところにあるスポーツクラブに連れて行ってくれ、そこにはサウナとジャグジーのバスもある。2000円くらいするけどね。ただし、この無料送迎バスは、平日と土曜日にしか運行していないのが難点だ。動いてさえいれば1120分から18時台まで、ほぼ一時間おきにあるから、利用価値はあるだろう。

月島駅まではほとんどめぼしい食事処などはない。もんじゃ通りは駅の右後方200メートルぐらいになり、同じ道を戻ってこなくてはならないかもしれない。駅のエレベーターは相生橋からもっとも遠い入り口にあるので、これも利用価値は疑問だ。ただ、月島駅は従来有楽町線だけであったが、大江戸線もとおって便利になった。とはいえ、断面積の小さいあの車輌の中に大量の機材を持ち込むのは、少々勇気が必要となるが。。
 

ツーリングを終えて、予想と違ったことが多々あったので、列挙しておく。

非常によかったのは、一番恐れていた、川の匂いである。正直言って、御茶ノ水の聖橋あたりでも相当、川の匂いはきつく、さながらジャンバルジャンの気分を味わうことになるのかという覚悟があったが、ほとんど問題がなかった。さすが、浮遊物を回収する専用ゴミ船がいるだけのことはあって、目立った浮遊物もほとんどなかった。パドルにビニールやわけのわからない藻屑のようなものがからみついてくるといったことが一切無い。これであれば、ヘタな東京付近の海より漕ぎやすいかもしれない。

それでも川の水の飛まつをパドルからかぶるのは抵抗がある。ここでもくば笠は大活躍だった。たまたま、パドルのツバが一つ紛失していて、やはり、そのツバ一つだけでも相当水を呼び込んでしまうことがわかる。ただ、水の色は緑色で、ユーコン川と変わるものではない。ユーコンのほうが、まあもう少しはきれいだが。

次に意外だったのは、川からの風景が非常に開けていたことだ。毎年隅田川花火大会で、川縁をうろうろし、空がほとんど見えないことを嘆いていたが、川から見ると、かなり開けていることがわかる。むしろ川から見たほうが、はるかに気持ちいい。そして、川縁から見ているのとまったく違う景色が見える。たとえば、いかにも浅草という町並みが見えないので、どこを通っているかよくわからなくなってしまったりする。

三つ目は、その景色が非常に変化に富んでいたということだ。通常、自然の中の川下りというのは、実はあんまり面白いものではない。鳥や小動物は人間がいるとわかると逃げてしまうし、景色は単調なまま続いていたりする。ユーコンがそうだった。橋から橋までが、100キロ以上もあり、その間近くを走る道路もほとんどない、という状態だから、人工物が目を楽しませる、ということもないのだ。

そこへ行くと隅田川はたいへんなものだ。ほぼ500メートル置きに橋がかかり、それも形状からたたずまいまでまったく違うのだ。上を通っているものも違う。電車だったり車だったり人だったり。最長区間でも1キロぐらいの距離しかないから、常に何がしかの構造物を見ながら漕ぐ旅になる。

四つ目は、これは予想すればできたことだが、見物人の多さである。何しろ花のお江戸のど真ん中をカヌーで下っているのだから、これは目立つ。京都の木津川あたりでは、そうはいってもかわっぺりにそんなにたくさんの人が常にいるというわけではない。しかし、東京はどうだ。どこにでも人がいる。

ただでさえ青テントのヒトビトの生活の場があるので、一般の人は近づかないだろう、という気がするが、(そしてそれはそのとおりだった)そうした、遊歩道として整備されているところ以外では、意外にたくさんの人々が、ぼんやりと川を眺めているものなのだ。
今回は特にサクラのタイミングとぶつかった、というより、そもそも我々がお花見しにいったのであるから、花見客が大集合したのはごく当然の話だ。不思議なことに、花を見ている人は少ない。というより、我々の視点からは花を愛でている人は目に入りにくい。私たちからは我々を見ている人がよく目に入る。場所によってはフラッシュの集中砲火を浴びる。なんだかなぁ。おそらくは「こんなバカがいたよ」的なキャプション付きで送信されたりしているのだろうな。

岸にいる人たちは、一様にうらやましがる。しかし彼らはやらないだろう。たとえ奨められたとしても。ジェットスキーならわからないが。上陸しなかったようちゃんたちは気がつかなかったのだが、実は岸辺にはもっともっと大量の人がいた。川から見られた人たちはごく一部なのだ。実際に川辺におりてしまったところからは、堤防の内側に咲くサクラが見づらいのだ。つまり、川側にいた人たちは、場所にもよるが、お花見に疲れて休息していた人たちだったのである。

川からは、従って、宴会をしている人たちは見えなかった。お弁当をひろげたり缶ジュースを飲んでいる人はいたのだけれど。それはつまり、川から、醜いものを見ないようにできるというマジックでもあった。興ざめにおもえる、提灯の列すらも、堤防は覆い隠して、ただ、サクラの花だけがよく見えるようになっていたのである。これも良かったことの一つ、しかもかなり大きな要素である。

予想を裏切って悪かったことは、波である。隅田川花火大会の終了時には大波がたっていて、なかなか怖いものがあったが、今回はよもやそんなことはあるまいと思っていたがかなり甘かった。波は、斜めに入ってくる。カヤックの場合位置取りがむずかしい。今回の船は波に対して、直角に進入しないと、水がデッキからどんどん入ってきてしまって辛くなる。そこで、90度の姿勢をとって、微速前進となるのだが、あまり川の真中に出ると、右側通行のフネにひかれてしまうことになる。それに対し、岸によりすぎると波の動きがよめず、かつ油断すると川壁に叩きつけられる恐れがあり非常に危険なのだ。

波は堤防にぶつかり90度折れてはねかえってくる。そのとき波が大きくなっている。進行方向の波の第一波が終わるとその後、岸からの波が襲ってくるのだ。これが周期的に繰り返されているうちはいい。大量のフネが通過すると、それがぐちゃぐちゃになってまったく気を抜けなくなってしまう。一度なぞ、まったくの波の頂点に立ってしまって、パニックに陥りそうになった。なかなか侮れるものではない。できればクローズドデッキの船で出ることをおすすめする。

悪かったことの二つ目は、あいもかわらず屋形船が排水を全部川に流しているのを見たところである。屋形船のお座敷で出た汚れた皿を船尾で洗剤で洗い、すべてそのまま排水している。隅田川をここまできれいにしたのは税金だが、そこで生活している人たちが川を汚しているというのはどういうことなのだろう。彼らはたぶん、縄張り料なりじまじめ料などは払っているのだろうが、それにしたって、とても見合うものではない。

彼らに何か言うことによって、逆に我々のほうが排除されかねない状況も考えられるが、こちらとて、汚い川での水遊びはいやなものだ。彼らに、自分たちのおろかさに気づかせることはどうしたらできるのだろうか。

今回は勝鬨橋をくぐることはできなかった。私にとって、隅田川といえばこの橋である。この橋の下をいつかくぐってみたい。というより、そういうコースもらんぶらさんは開拓しているのだという。浜離宮を海から眺めるというのだ。また、途中から神田川に入ったり、御茶ノ水渓谷に抜けたり、いろいろなバリエーションもあるという。なるほど、はじめてなので、そして心の覚悟ができていなかったので、今回はなかなか辛くはあったが、なれてくれば、そのバリエーションというのも楽しいかもしれない。波の癖やパターンを覚えてしまえば、こんなにも緊張しつづけということも無いのかもしれない。そうしたことも含めて、楽しめるフィールドであることは間違いない。もちろん、雑踏の中を車椅子で動くような、好奇の目にさらされたり、危険な対応もあるかもしれないが、それは街で生きるうえで仕方がないことなのだろう。そうしたものを、受け入れたり、楽しみに変えていかなかったならば、カヤックという道楽の別の面も発見できないのかもしれない。少なくとも、普段の街の風景を変えて、楽しませてくれるという要素は大きい。

きょう、はじめて隅田川を下り、10日が過ぎた。いま、下り終わった直後の気分とは違い、自分でも意外なことだが、また、あのフィールドに出かけてみたい気持ちでいっぱいなのだ。