釧路川漕行記

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8月12日(弟子屈→標茶)


朝6:30起床。朝のうち雨だが、すぐ止む。天気予報は曇り時々雨。北海道北部には大雨洪水注意報がでているそうだ。気温は涼しい。結局、我々を含めて5張りのテントがここでキャンプしていた。この場所は徒歩旅行の人のキャンプ場でもある。

本日は、「ボーテージするべき」3つの瀬、弟子屈の町なかのふたつの瀬と、南弟子屈の瀬にあたる日である。

天気があぶないので橋の下にもぐりこんで朝食をつくる。カナディアンの人が先客にいた。
「テント張ったんですか?」「いえ、このまま」「虫、大丈夫でしたか?」「なんとかなりました」たいしたもんだ。我々は、ゆうべは刺されまくった。とくに上陸時にバグチェイサーをなくしてしまった鍋さんがひどかった。ちなみに土手の上、温泉案内所の前の屋根つきベンチでライダーがひとり寝ていた。みんなつわものである。
スパゲッティをゆでていると、となりテントの、アベックで徒歩旅行(徒歩+電車)をしているというふたり連れも朝食をつくりにくる。この男性の方が、以前釧路川を下ったことがあるとのこと。「そのときはずぶ濡れでここに着いたのですが、あそこのペンションの人が風呂に入れてくれたんですよ」橋のたもとのペンション「BIRAO」は値段もけっこう安く、ライダーが何人も利用しているようだった。ここにはコインランドリーもある。

10:00、出発。
ここから弟子屈の町の中の釧路川は、浅くひろく流れる3面護岸の水路となる。

朝の散歩の人が護岸の上から見下ろして丁寧なご忠告をくれた。
「このさきにちょっといやらしいところあるよー」
「そりゃ、どーも」
東京ではこういう忠告をくれる人はまずいない。
すぐに川は波だってくる。1級にも満たない瀬だが、けっこうはやく流れている。底摺りだけ気を使った。
弟子屈町内の橋は、摩周大橋を先頭に、湯香里橋、弟子屈橋、栄橋、万すい橋の5本。最後の万すい橋をこえた数十メートルばかり先にひとつ目の瀬がある。この瀬はけっこう手前から確認できる。
NECで購入した川地図には、この弟子屈町内のひとつめの瀬は「スキップ」と書かれている。「全国カヌーツーリングガイド」では、「工事中のため、ボーテージ」となっている。もちろん、工事はもう終わっている。
瀬の手前左右がコンクリで固めた岸になっているので、そこであがってしげしげ瀬を観察した。
川いっぱいの流れが、まんなかに集められてスロープ状に流れ落ち、流れが集められて40センチほどの三角波が立っている。そのまま本流はテトラポットの岸にあたっている。ごうごう流れは音をたて、けっこう迫力。
「どうします?」
「うーん、船壊したらしょうもないからやめようか。」
かくて、ロープでカヌーを引きながら降りる。足場はしっかりしている。三角波のできている所の脇はエディになっていた。よくよく見ると、そんなにたいした波でない。
「これ、行けますよ。」
僕はエディでキャンペットに乗り込み、三角波につっこんでいった。快感!これは面白い。はじめから下るんだった。しばし流れたあと、本流から抜けだし、逆流しているエディにのると、さっき船にのりこんだ脇までさかのぼることができる。面白がって、同じ三角波にまたつっこんで遊んだ。

さて、弟子屈第二の瀬は、そこから数百メートル先のはずである。
川のカーブの先に、「工事中左によれ」という、カヌーイスト向けに立ててあるにちがいない看板があった。とりあえず瀬がありそうなので、左岸に上陸。流れの右半分を鉄板の壁でぐるりと囲って、土手の改修工事をやっているようだ。
土手に上がって先を見る。
しかし、工事中の脇も、工事の先の流れも平穏。弟子屈の大きな瀬が見当たらない。
「まだ瀬は先みたいだねえ」
「そうだね」
川に戻り、工事中の鉄板の脇を流れる。流れ右半分がないからか、流れははやい。

ところが、よくよく見ると、川の先が、ない。
手前の川と向こうに見える川に、段差がある。
落ち込みだ!気がついたときは既にカヌーは数十メートルの近くまで来ていた。
「瀬!せーっつ!左あがってーっつ!」
言葉にならないようなことを鍋さんにわめきながら、左に寄る。ところが、左岸は水面に四角く顔を出したコンクリの消波ブロックの群れで、船を乗り上げる訳にもいかず、ブロックをつかんで止まるのもままならない。バック漕ぎも効かない程、流れは早い。
つまり、艇が止まらない!
あっという間に落ち込みが迫ってくる。弟子屈の瀬に無謀な旅行者つっこむか!
もはや、絶・体・絶・命、である。

最後、
流れ落ちる本流の左に消波ブロックのすき間があった。鍋さんとからまるようにそこに艇を入れる。艇は落ち込みの左半分をふさいでた消波ブロックでひっかかって、落ち込みをすぐそこに見ながら止まった。

あ、あせった。本当にあせった。
さっきの瀬がありそうな予感は当ってたのだ。でも、それを生かせなきゃしょうがない。
とにかく、止まってよかった。

艇からはいだして、土手にのぼって「弟子屈第二の瀬」を検分する。
瀬は、「全国カヌーツーリングガイド」に記載されているときから改修されたようで、ここもさっきの瀬と同様、スロープ状の流れを堰堤の中央にわざわざつくってあった。ただしさっきよりスロープは長く、スロープの最後にできている三角波はさっきよりもっと高いのが3つもならんでいる。本流をまっすぐにいくとその波を全部のりこえる必要がある。底を摺る心配はまずないと見た。
話のタネに、ここは下りたい!
落ち込みを眺めていると、上流からソロのパジャンカが来るのが見えた。さっきの我々ように突っ込んでは大変なので、駆け寄って艇を止める。陸からのサポートがあれば消波ブロックの岸でも艇は止まれる。
降りてきたのはけっこう「ごつそうな」あんちゃんだった。瀬をひとめみただけで下る事にしたらしく、悠然と艇にもどっていく。
「けっこううまそうだね」
ここは上級者の技を見ることにする。

パジャンカが岸を離れる。落ち込みはまんなかまっすぐいくだけ。素直といえば素直。すっとスロープを降りて三角波につっこむ。青いカヌーはほとんど水面下になりながら人間の姿だけが上下して、三角波を乗り越えてゆく。ところが最後の波にまっすぐ当たらずに波頭から艇が左にすべり落ちた。
そのまま左に横転。脱沈!
おいおい。。

「誰だ上手そうだって云ったの」カヌー乗りはひとがこけるの見ると思わず爆笑してしまう。
落ち込みの下は瀞場で、脱沈してもすぐつけられる岸がある。すぐパジャンカは岸にあがって水出しを始めた。
つまり、こけてもなんとかなる瀬ということである。

「行きましょうか!」
まず鍋さんが行く。僕は土手の上からカメラを構える。鍋さんはきれいに三角波にあたって行った。見事、クリア。


続いて僕。落ち込みをすっと降りる感じがいい。三角波にぶち当る。ざっぱーん!頭から水をかぶる。
「ひゃっぽー」
艇がずれると沈するのでとにかく漕ぐ。パドルが水に当たってるのか空振りしてるのかよく判らない。とにかく、ざあざあという音の中、水と揉みあう。
水しぶきから視界が開けたときに、瀬を抜けていた。土手のうえで見物していた土地の人がひとり、手をたたいていた。やったね。

鍋さんは岸につけて水出しをしていた。アクアミューズのスプレーカバーを着けずに下りて、水船になったそうだ。僕も頭から水をかぶって、ベルトポーチに入れていた使い切りカメラまで濡れた。ファルトボートのスプレーカバーは密閉性が悪い。
ちなみにこれから後もこのカメラは散々水をかぶるが、一応、写真は写っていた。ただ、あとのほうになると、ノブが回りにくくなり、できあがった写真には傷がたくさんついていた。

この弟子屈第二の瀬は面白かった。下をぶつける心配がないし、本流が細くなっているので、瀬に巻き込まれることもなさそうである。ただ、流れはけっこうキツイので行く人は下見が絶対必要。それから、沈覚悟ね。

これから下流は瀬が連続して本当に楽しい川になる。まわりは牧草地であるらしい。くやしいのは川の上からでは広々としているであろう牧草地の景観が見えないことだ。川はのんびりと、軽快に流れている。このへんは浅いので沈しても足が立ちそうだ。
鴨を見た。近づいていくとばたばたばたっと逃げる。はやい。東京の水鳥と比べ物にならないくらい速い。体が水面に浮き、水面を走っているんじャないかと疑う程である。ホバークラフトのような鴨だよ、あれ。野性の鴨はたくましい。

12時になったので昼にしようと、中州に上陸。さっきのパジャンカのおにいさんが先客でいた。中州なので土手のむこう側が見られないのが悔しかった。
鍋さんが河原の石をひろってきた。よくみると石に小石が糸のようなものでくっついている。
「この小石のなかにカワニナが隠れているんだよ」よくみると、石の表面にも小さなサソリ状の生き物がついていた。「カワニナは川によって違うからね。魚釣るときにはその川の虫をつかうのがいいんだ」勉強になりました。

中州から川の正面はるか遠くに白いサイロが見えた。
「南弟子屈の瀬の目印の白いサイロってあれだよね。」
「そうだね。でもあれじゃ川から見えないね。」
「もう少し先にいくと川から見えるようになるんじゃないの?」
「ではそこまで行きましょうか。」
しかし、なかなかサイロは見えてこなかった。
先方に瀬が見えた。とりあえず上陸。まだサイロは見えてない。だからあの瀬は問題の南弟子屈の瀬ではないはずだ。本流は入り口で一回左にS字に落ち込み、最後の所でちょっとした落ち込みがあるらしい。そんなに大きい瀬には見えない。本番前のちょっとした前哨戦の瀬か。
「たいしたことないねえ」「本番はまだだね」
僕はちょっと寄り道したくなった。上陸したところは車でも入って来られる岸で、その道を伝って岸を上がって見ると、はたして、目の前には広大な牧草地が広がっていた。
「北海道だなあ!」
自転車で北海道の道を走っているときにもそうそうお目にかかれなかった程の田舎の景色にしばし、感動。自転車で走っていたときには必ず見えた、アスファルトの道路が見えないのだ。カヌーは正真正銘、原野を行く乗り物である。

さて、「前哨戦の瀬」に入る。さすがに2艇同時には行けそうになかったので鍋さんが先に行き、僕が続く。落ち込みをS字にかわす。おやっと思う。流れがはやい。帽子がうしろにすっとんで行く。しかしそれを振り返る余裕がない。
速いぞ、ここ。
そのまま岩の間の水路に飛び込む。さっきの上陸地点から見えなかった瀬が目の前にある。
しかも、水路がやけに細い。まさしく1艇分の横幅しかない。パドルを入れるすき間もないのだ。
「ち!」
どうせパドルは1万円の安物である。ここで割っても惜しくない!艇のバランスを取るため、パドルで左右の岩をぶん殴りながら進んだ。岩の上で艇を降りている鍋さんの脇をパス!座礁したか、と、人の事を心配している余裕がない。
水路は最後に左に折れていた。ふん!と艇をひねると船の長さが短いことが幸いしたか、キャンペットは僕の思っていたほうにするりと曲がった。どん、と平たい岩の上に艇が乗る。左側だけで乗っている感じだ。ここでもたもたすると艇を転がされる。ふんっと力をこめると、ずるずるずるっと艇は岩からすべり落ちた。

クリア!
たいしたもんだ、と、思わず自画自賛。

その先の流れもけっこう速そうだったので、鍋さんを待つためにエディに入る。そこでたまたま釣りをしている親子がいたのでそこには上陸できない。釣りのお父さんがのんびり声をかけてくる。
「下見、されましかあ?」
「はい」
「へえー、すげーっ」
心底驚いたような声をあげたが、もちろん下見の件は半分嘘である。
鍋さんが下りてきて、すぐ先の小さな中州に上陸。

「さっきの水路でちょうど俺の船のガンネルがはみだしてさ。」鍋さんが話す。途中でお立ち台状態になったので後ろから来る僕のために艇を下りて道を空けたのだそうだ。鍋さんの判断に感謝。
キャンペットが浸水しはじめた。裏返してみると、見事な裂け目が4センチ程できていた。最後の岩からずり落ちたときにやったらしい。ガムテープで補修。
その中州から正面にサイロが見えていた。サイロの手前で川が左に折れていて、そこにも中州がある。いよいよあの中州から南弟子屈の瀬が見えるに違いない。
「あそこで上陸して瀬の偵察しましょう」
いよいよ南弟子屈の瀬という期待感にすそれなりに緊張しながら、中州に上陸。
川のむこうにひろがる南弟子屈のごうごうたる瀬が…
…なかった。
きょとんと顔を見合わせた。そんなはずが…
「さっきのが南弟子屈の瀬だったんだ…」
無知とは恐ろしきものなり。

本日の教訓。下見は徹底的にやりましょう。南弟子屈の瀬は下るのをお勧めしません。
しかし、結果的に「釧路川最大の難所」南弟子屈の瀬をやわな安物ファルトボートのキャンペットで下ってしまったのである。船の長さが短いのがまたここでも幸いした。釧路川はよく曲がる船が向いている。
あとから聞いた話、本当にここでは船を壊す人が多いそうである。「船を壊して旅行自体が終わってしまう人」が近くの農家に電話借りによく来るのだそうだ。

南弟子屈の瀬を知らないでくだってしまった真実を知ったとき、ふたりで大笑いした。
無謀な連中であった。

それから下流は、なんとなく鍋さんが先にいくことが多くなった。こうなるとルート取りの労力をすぐ怠る。鍋さんの後ろについてったらいきなり水面すれすれにテトラポットがあった。鍋さんはその脇をすり抜けるように漕ぐが、ロクに前を見てなかった僕はおもいきり、ごつっとやった。
完全に通った穴は南弟子屈の瀬のときとこのテトラポットのときの2回のみである。すぐにガムテープ補修と相成った。
すこし反省した僕はそれからできるだけ自分から前にでるようになった。釧路川でひと任せは死を招くようである。

釧路川にはカヌーのために立てたらしい看板がよく川を向いて立っている。2:45、「熊牛平野。磯文内まで5キロ。開発局」という看板を通過する。木色の立派な看板だ。北海道では建設省でなく開発局なんだな、と、妙なところに納得した。

川の底に岩盤質の浅めの場所がでてきた。岩盤が平たくつみかさなって、浅い所と深いところができている。平たい岩盤が川を浅くしているところでは、ルート取りに気をつかう。このへんは水も奇麗だし、水面の波を見ていればある程度は深さがわかるので、しっかり見ていれば浅瀬にのりあげることはない。ちなみにこの辺は瀬がちょくちょくあり、楽しめるが、岸はしっかり護岸工事済、というところが多い。その岸のむこうにひろがるのが牧草地であるだけに、ちょっと悔しい。
磯文内「開発橋」にさしかかる。この橋の前後にちょっとした瀬がある。橋の手前は岩盤の浅いところがあり、カヌー用の通路はけっこう狭い。まあ今回は狭いといってもパドル入れるすき間はあるが。橋の下流側は2級を越えるくらいの瀬になっている。瀬に歓声をあげながら漕ぎくだるが、すき間の多いスプレースカートから、だいぶ水が入ってきた。
その先は護岸になっていて、上がりにくかったが、なんとかあがるところを見つけて上陸した。護岸された土手に上がってみると、上は牛が草をはんでいる牧草地だった。虫の声がやかましい。空がきれいだ。少しくもっているが、空の色、雲の色が都会とは全然違う。雲を見あげて、しばし、感動。
向こう岸の土手の上は牧場のサイロが見える。よくみると右手、下流側にテントを張っている人がいた。さっきのパジャンカの人じゃあないの。
「よくあんな所までカヌー持ち上げたなあ」
土手は6〜7メートルくらいの高さがあった。でも牧草地のどまんなかでキャンプするのも悪くなさそうだ。でもやっぱり、虫がはげしいだろうなあ。
テントの脇を流れながらテントを見ると、おにいさんが海パンいっちょうでパジャンカの底を修繕していた。こっちを見て手をふった。

4:12、磯文内橋通過。緑色の奇麗な橋だった。バックパッカーがひとり、橋の上を歩いていくのが見えた。川は両側護岸になったり、片側護岸になったりしながら続いていった。
「あ、サギ」
川の向こうで横顔を見せている、鶴とみまごうばかりのきれいな白い鳥。ぱっと羽を広げると、首をしっかり折曲げて飛んでいった。鶴とサギの見分け方は飛んでいるとき首を伸ばしてるか曲げてるかである。

標茶の手前に川の土壁に穴が無数にあいているところがある。穴にはツバメが入れ替わり飛び込んでいく。鍋さんが云った。「ツバメのコロニーだ」川の上にはうるさいほどツバメが飛んでいた。「いま、食事時だからね。」川地図には、「ショウドウツバメの巣」として場所が載っている。

5:05、標茶の風雲橋を過ぎたところで上陸。標茶はこの風雲橋から200メートルばかり先の開運橋(駅につながる道の橋)の下流まで、護岸の土手の上が運動公園になっていて、キャンプ好適地。しかし、さすがにこんなに手前から上陸してる人はいない。

とりあえず偵察に行く。買い出しに便利な開運橋の脇にはカナディアン、ファルト、インフレータブルといろんなカヌーの人がいくつもテントを張っていた。
運動公園の中を、川から離れるに従って、バイクの人や自転車の人がテントを張っていた。ちょっとしたキャンプ場の雰囲気である。しかし、このあたりで上陸した人はみんな4メートル程の土手の上まで艇をひきあげる必要があり、こりゃしんどいわと鍋さんと合意。船までもどる。この場所なら、水面に近い岸があるので、艇を土手の上まで持ち上げなくて済む。買い出しには遠が、水も簡易トイレも近くにあって今日のテントはここがいいだろう。

船のところにくると、大阪のふたりがちょうど着いたところだった。
「弟子屈の瀬、無事でしたかあ?」と、僕が声をかける。
「弟子屈のひとつめの瀬は気がつかないうちに通りすぎてしまいまんねん。」
おいおい。
「じゃ、南弟子屈の瀬は?」
「ボーテージしました」
やはり、普通は南弟子屈はカヌーをひっぱるところである。

みんなしてここにテントを張ることにして、荷物を解く。ここでやられた。このへんの水際には、体長5ミリほどの小さな虫がいて、血を吸うのである。気がつくと足に吸い付いていて、つぶすと血が出る。このとき食われたところはあとあとまでかゆくなった。ここに上陸するときは長ズボン要です。短パンで漕いで来てもまず上陸したら長ズボンはいて足を隠すことをおすすめします。本当、こいつらにはやられた。

それから買いだし&風呂に出かける。
開運橋から駅の方向に歩いて行くと「きりや」という店がある。ここはちょとした田舎のディスカウンターといったところで、洋服、化粧品、電気製品からアウトドアグッズまでかなりの品揃えがある。ふたりでここで、無くしてしまった帽子のかわりに麦わら帽子を買った。店で風呂の場所を聞く。「どこにでもあるわよ」という答えだった。とりあえず、「ファミリーランド」という温泉に行く。
田舎の娯楽施設といった、温泉とゲームセンターとレストランが一緒になったちょっと古い建物だった。
標茶の温泉は湯の色が真っ赤だった。でんぷんに反応したヨウ素溶液の色である。日焼けや怪我にいいそうだ。体を浸していると、本当に効きそうな感じだ。じっくり虫さされのあとをひたした。当然、今日も鍋さんを待たせてしまいました。
でもゆっくりつからなきゃ温泉の意味ないもんね。
外は雨がふってきた。途中の店でとんかつ定食と冷えたビールで夕食。すっかり幸せになった。

夜中11時。爆音で目が覚めた。雷である。それもひどく近い。音も激しく、光ってから音までの間隔がほとんどない。
「これちょっとやばいんじゃないの」
鍋さんと風雲橋の下に避難した。避難といってもテントの中と橋の下でどっちが安全かあやしいもんだ。空を見ていると見事な稲妻が黒い空を切り裂いている。
派手で、でっかい。雷まで北海道だ。
雷雲は本当に真上を通過していったようだ。ぴしゃんばりばりと大きな音がしてどこか近くに落ちたらしい。やがて雷雲は去ってく。とりあえず生きていることに感謝。カヌーに来て雷で死んだらギャグにもなりゃしない。
テントに戻ると、テントがあけっぱなし。雷怖さに急いだらしい。かなり雨が吹き込んでいて、濡れたシュラフをストーブで乾かす羽目となった。不覚。