釧路川漕行記

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8月14日(塘路湖→細岡)


目が覚めても体がずいぶん疲れている。今日で5日め。だいぶ疲れがたまってきた。がんばって起き上がる。6:45起床。天気曇り。キャンプ場はもう起きていた。正面にテントを張っていたチャリダーはもうテントをたたんでいた。相変わらず北海道のチャリダー、ライダーにはかなわない。
トンビの鳴き声がした。空にトンビが舞っている。こいつも朝早いんだねえ。。
まだ鍋さんは起きていかったので、スケッチブックを持って湖畔にいってスケッチとしゃれこんだ。朝の湖畔はなかなか静かでよかった。


今回の旅行中唯一のスケッチとなった絵を描きあげたあと、テントに戻ったら鍋さんはもう起きていて朝食をつくっていた。
天気は不安定でぽつぽつ雨も落ちてくる。しかしここで停滞する気はないので、出発準備。大阪の人とはここでお別れである。彼等はもう1日時間があるので今日一日はここにいるそうだ。
いよいよ出発というときに、カナディアンをかついて浜にでてきた人がいた。
弟子屈のNECの人である。今日はお客さんのカナディアンの搬送に来たとのこと。「いや、そろそろこの辺にいるんじゃないかと思ってたんですよ」しばし、話し込む。
なんでもNECの従業員はみんな他に仕事持っている人とのことで、カヌーの搬送の「仕事」をやっていると近所の人から「また遊んでいるんですか?」と、云われるそうだ。しかし「事業拡大傾向」とのことで、今度従業員増やすとか。
「全国誌へのPRなんかはしないんですか?」
「カヌー搬送やが、繁盛しすぎて人手がなくて行けませんじゃ仕方がないでしょ」
ノースイーストカヌーセンターは利用して損はなかったと思います。

NECの人と大阪の人に見送られて、10:05塘路湖キャンプ場出発。
見送りなんかされたの初めてだ。

鏡のような水面を漕ぐ。レンタルのカナディアンがキャンプ客を乗せて湖面を漂う。昨日見たけど、ガイドつき細岡まで3万9千円だそうだ。いい商売だな。
でも夏しか儲からないだろうなあ…。
そんなことを考えながら、釧路川に続く水路をたどる。このへんも湖の続きで平たい水面。カヌーで入っていくと無数のアメンボが四方八方へ逃げていった。軌跡がたくさんついて面白い。
ゆっくり漕いで10:41二股通過。釧路川に入る。

トンビが空を舞っている。アオサギが鶴のようなふりをして岸辺に立っていた。さすがに鶴のいる季節ではない。
JRの列車が木立のあいだに見え隠れする。湿原観光列車のノロッコ号だ。すれ違いざまに汽笛を鳴らした。あれはもしや釧路川の船乗りに合図したのかなあ。
川はうっそうとした木立を両岸に従えて、湿原のなかを流れていく。
朝から半べその空が、とうとう泣き出した。しとしとと雨。雨の湿原の景色を見ながら、川に流されるまま流れていった。
蛇行を繰り返す川の後ろから、フジタのカヌーの一団が追い付いてきた。フジタ艇ばかり5艇。学生らしい。どっから来たんだ?塘路湖にいなかったはずの連中である。標茶からここまでは距離がありすぎる。
「こんにちはー、今朝はどこから下ってるんですか」
「標茶からです」
「何時にでました?」
「6時半」
元気な学生はぐーたら社会人とは訳が違う。
彼等は最終的には新釧路川の15キロの直線コースを漕破して河口をめざすという。立派。
フジタの一団は力強いパドリングで我々を追い抜いていった。

雨はだんだん強くなるようだ。しっとりと濡れた湿原も雰囲気あっていい。と、やせがまんする。
とは云っても塘路湖から細岡まではすぐだった。やがて、カヌーイストのテントが立て込んだ細岡が見えてきた。
12:05、ちょうど塘路湖から2時間で細岡着。今回の釧路川下りのゴール地点だ。ここからなら駅がすぐそばだ。
細岡は湿原唯一の上陸地点という風で、川のほとりに駐車スペースと10張りほどのテントが並ぶスペースがあった。地面が整地されているのか、ペグが効かないのがひとつ不満ではあったが、とりあえずテントを張る。

雨はやまなかったが、とりあえず細岡展望台に行くことにした。細岡駅は奇麗なログハウスで中にフラットなスペースもあるので泊まろうと思えば泊まれそうだ。ただ、ログハウス内にトイレもある(水洗)ので、夜があけると蝿が多くなったのが癌だった。今日はテントのほうが気を使わなくて楽だろう。
ちょうどいい時間の電車がなかったので展望台まで歩く。雨の中、ほぼ30分で「細岡ビジターセンター」着。ここは最近できた湿原の資料館だ。奇麗な木造の2階建てで、軽い食事をすることもできる。昼食がパンだけだったので、ここでピラフを食べた。
細岡展望台も雨でもやっていたが、それでも湿原の景色はよかった。スケッチブックを持って来て絵にしたいところだが、この雨では絵の具は使えない。岩保木の水門とその先に10数キロつながる新釧路川の直線水路がぼんやり見えた。

かえりがけに釧路湿原駅のちかくに唯一建つ「みん宿&コーヒー のーむ」へ入ってお茶にする。きれいな安い宿である。1泊2食つき5300円とのことで、ここを最終宿泊地にするのもいいかもしれない。建物はちょうど川沿いなので、カヌーを引き上げられるかオーナーに聞いた。上がるのは可能だが、上がり口が判りにくいとのこと。うーん。いい場所にあるんだけどなあ。
コーヒーを飲んでいたら窓の外の庭にキツネが入って来た。初めて見た。キタキツネだ。
そぶりはのら犬のようにも見えたが、奇麗な毛並み、ふさふさのしっぽで、俺は野性だぞと自己主張していた。

夕刻、細岡にぶらぶら戻る。
この細岡の駅の近くにあるのは牧畜農家が一軒だけ。この駅はこの家のためにつくったような駅である。駅に列車が着いてもほとんどだれも乗らないし、降りない。
この牧畜農家に「たばこ」の看板があった。もしかしたら何か買い物できるかな、と、あまり期待しないでその看板の方へぐるっと回って見た。そこはちょっとした酒屋になっていて、ジュースと、ビールと、日本酒と、カップラーメンを並べていた。おばあさんがひとりで店番しているという田舎田舎した店だ。しかし、ここでビールが買えたのは大収穫である。ただ、このおばあさんはビール4本おつまみ1袋の計算に手間取って、しかも間違えた。でも、本当に気のいいおばあさんだった。
テントに戻るとパジャンカのおにいさんがテントを張っていた。彼もまた、あと一日時間があるので河口まで行くとのことだった。
夕方になると雨もやんだので、テントの前で夕食。虫がわんさか湧いてきた。
蚊取り線香でまわりをぐるっと囲む。
釧路川最後の夜は、原野の風景を見ながら、更けていった。

夜1時すぎにテントの外でがさごそ音がして目が覚めた。こんな時間に歩き回るキャンプ客がいるのかあ。と思って我慢して寝ようとする。ところが、テントのすぐ外側に置いておいた鍋がころんと転がる音がした。おやっと思った。こんな夜中に…幽霊??
…のわけない!シュラフをはねのけ、テントをバッと開けて外にライトを照す。
夜の釧路川を背景にライトの光に浮かび上がったのが、辛子色の体、ふさふさのしっぱ。
キタキツネだ。
そいつはライトの光で両目を金色に輝やかせながら闇のなかに消えていった。

前回の自転車旅行で見られなかったキタキツネに原野のなかで会えたのが嬉しかった。そのまま、幸せになって眠る。
当然、そんな人間様の満足とは関係無く、キツネは夜じゅうキャンプ場を歩き回ってごみ袋をあさりつくしてくれた。こんにゃろ。。